2021年春アニメの中でも抜群に面白いゴジラS.P.。毎回混迷を深めていく状況にはらはらしながら見入っています。
初代『ゴジラ』では水爆によって目覚めた破壊神ゴジラによる災厄が描かれます。この映画には戦争で百万人以上が死んでから10年しか経っていない日本という世相、ならびに日本人の死生観が色濃く反映されており、それ故に様々な解釈が与えられ名作と呼ばれるようになりました。この映画ではゴジラこそが災厄であり、ゴジラとどう向き合うか、ゴジラをどう退治するかがテーマです。したがって、なぜ水爆によってゴジラが目覚めたかは描かれていません。そのこと自身は作品の価値を下げませんが、SFとしては不満が残ります。
一方、ゴジラS.P.ではゴジラを『紅塵災厄の一つ』と位置付けており、紅塵災厄とどう向き合うか、どう解決するかがテーマです。なぜゴジラが 紅塵災厄から現れたのかはまだ描かれていませんが、なんにせよ(スタッフは大きな声では言わないでしょうけど)ゴジラはストーリーにおいては脇役でしかありません。
と言うことで、メイは芦原破局点をどうやって回避するのか!!ユンはゴジラと戦うのか!!が10話放送終了時点での注目点です。
さて、謎を残しつつ伏線の回収が始まったこの作品ですが、ここでざっと伏線を眺めてみると一つの仮説が出てきます。このストーリーって、芦原博士が仕組んでいるように思えませんか?
芦原博士と未来を見る計算機
現時点で芦原博士について断片的にわかっていることをざっと並べてみるとこんな感じです。
- みさきおくの研究所の設立者であること
- 研究所地下の骨から出る電波を送信する施設を作ったらしいこと
- SHIVAの設立にかかわっているらしいこと
- ほとんどの研究は認められず、研究ノートも何を書いているかわからない事
- 時間屈折を使った超計算機を使う仮定で、未来に破局点を発見したらしいこと。
などです。最後の点を言い出したのはメイですね。
仮にメイの仮説が正しく、博士が未来の破局点を見つけたのだとしたら、根本的な疑問が浮かび上がります。
「博士は破局が起こると知ってなお、手をこまねいて見ていたのか」
この質問に対する考えうる答えは
- Yes, 博士は研究対象としての破局に興味はあるが、回避は二の次だった。
- No, 博士は破局回避の努力をした。
というものです。1.はマッドサイエンティスト的ですが、ゴジラシリーズにおいては避けて通れないスタンスです。初代ゴジラでは山根博士が「ゴジラを殺すより研究することが人類への貢献となる」と主張しており、話の重要なポイントとなっています。ゴジラS.P.においてはBBがこの立場に近いように描かれていますね。
芦原博士は写真や研究ノートを見ると実にマッドなご様子ですが、2.のスタンスだったのではないかと私は思っています。仮に2のスタンスだった時、芦原博士は何をしたのでしょうか。
タイムマシンのパラドックス
10話の冒頭、メイの回想としてリー博士とのタイムマシン論議が描かれます。回想のなかでリー博士は
「タイムマシン・パラドックスは情報を送らなければ発生しない」
と言っています。ここでいうタイムマシン・パラドックスは、博士が言うように
「タイムマシンによって得た未来の情報で過去を変えると未来も変わる。その結果、タイムマシンの無い未来に収束する」
というものです。
この論議は要するに芦原博士の超計算機を望遠鏡のように使って未来を見ても、それを利用することはできないということです。
芦原博士が超計算機を使って未来を改変しようとすると、超計算機が利用できない未来に行きつき、破局を回避できるかどうかわかりません。いっぽう、博士には計算機しか武器がありません。
ジレンマです。
芦原ノートと暗号放送とSHIVA
リー博士の
「情報を送らなければパラドックスは起きない」
という主張に対して芦原博士が到達答えを発見したのがユンです。ユンはみさきおくからの放送にディジタル・データが埋め込まれていたことを見抜いていましたが、10話でそれがMDハッシュであることを突き止めます。その結果、彼は放送されているデータのメッセージ解読にあらかた成功しますが、いっぽうで別の疑問を抱きます。
なぜ、当時存在しないアルゴリズムによる符号化ができたのか。そもそも、なぜそんなことをしたのか。
これは見ている我々には自明です。芦原博士は超計算機を使い、未来に開発されるアルゴリズムによる計算を行ったのです(後述)。そしてそんなことをしなければならなかった理由は、彼の時代に解釈できる形でそれを放送すれば、未来が書き換わって破局の回避が不確定になるからです。
芦原博士は彼の時代には雑音としての意味しかないMDハッシュを使ってデータを送る仕掛けを作りました。おそらく、彼の研究ノートが意味不明に記されているのも同じ理由です。彼は将来…破局が起きる直前に…誰かがそれを解読することを期待して難読化したのではないでしょうか。
そしてひょっとすると、SHIVA設立さえその後の未来を改変するための土台だったのかもしれません。
偶然なのかプログラムされた必然なのか
さて、現在お話は進行中です。
我々はみさきおくの研究所の警報により提携研究所に連絡が入り、代理で偶然メイが登場し、首をひねりつつ業者であるオオタキ・ファクトリーへ電話し、ユンと電話で会話をするシーンを見ました。オオタキ・ファクトリーのWEBサイトに遊び半分でアクセスしたメイが考えもなくナラタケをインストールするのを見ました。ナラタケはインストールをメイに請い、ペロ2となってメイのノートをまとめて勝手に論文サイトに投稿します。偶然論文を読んだリー博士はメイをシンガポールに招待します。そして移動中に偶然ラドンが街を襲うさまを見たメイは、洗濯物が心配になります。メイの意を汲んだペロ2はオオタキ・ファクトリーの作業用自走車両を乗っ取り、偶然にもユン達を助けます。そこから、偶然チャットするようになったユンは、芦原ノートに取り組むメイを助けます。リー博士はメイを芦原博士が残した書斎に案内し、SHIVAへの道筋をつけて退場しました。幽霊騒ぎが起きてユンが駆り出されたお屋敷は偶然にも芦原博士の屋敷でした。
これって全部偶然ですかね?もちろん、物語中では偶然です。我々は主人公とヒロインが偶然出会って偶然世界を救うお話をずいぶん見ています。
でもこれ、ぶっちゃけ芦原博士の組んだプログラムじゃないですか?
全くの妄想ですが、芦原博士は直接的な未来改変をあきらめた後、破局の直前に、それを回避しうるシナリオを探ったのではないでしょうか。そうして、超計算機によるシミュレーションを何度もまわして、もっとも破局回避の可能性の高いシナリオを作り上げたのかもしれません。そのシナリオは、
- 地下の骨からの警報を探知したら提携研究室に連絡するという、一見無意味な指示。
- 電波に埋め込まれたMDハッシュ。
を起点としてメイとユンをみさきおくに引き寄せ、メイが芦原ノートにたどり着き、ユンの協力を得られるようなバタフライ効果を計算したのかもしれません。SHIVAの設立も、メイの前にリー博士を連れてくるためだった可能性があります。
メイをユン、リー博士という二人の協力者に合わせたことからペロ2もだいぶ怪しいのですが、それがバタフライ効果によるものか、芦原博士が何かを仕組んだのかはちょっとわかりませんね。今のところ芦原博士からナラタケにつながる線は無いようですが。
もう一波乱ありそう
物語は終盤へと向かい、どうやらメイとユンがあと一回言葉を交わせば破局を逃れる道筋がつながりそうです。一方でインドの研究所の面々は「シバ」と呼ばれる何かを隠し持っているようで、一波乱あることは避けられないでしょう。
なんにせよ、「科学者と技術者が世界を救う」というSFど真ん中のこの作品も残すところあとわずか。ワクワクしながら放送を待ちます。