本当は怖い逢坂大河

「大河、台ふき絞ったからちゃぶ台拭いてくれないか?」
返事がない。

変だな、と思う。最近は喜んで手伝いをしてくれていたのに。

「おい、大河!」

振り返ってようやく理由がわかった。我が婚約者殿はちゃぶ台に頬杖を突き、へらっと顔を融けさせて白いイヤホンから流れてくる音楽に聴き入っている。せっかく遊びに来たんだから、うまいものを食わせてやろうと思ったらこれだ。まったくもう。

「大河、おい大河」

近づいて声を掛けてもまだ気づかない。

「飯だぞ!聞こえないのか!」
「あっ!」

イヤホンを引っこ抜かれた大河が声を上げるが、二の句が続かない。竜児を見上げて口をぱくぱくさせる。そしてみるみるうちに顔が真っ赤になる。

「えらくはまってるみたいだな。何聞いてるんだ?ちょっと聞かせろ」
「だめ!」

大河が奪い返そうとするのを押しとどめてイヤホンを耳に押し込む。想像していたのと全然違う音が流れてきて、一瞬混乱する。それは音楽ではなかった。

『…おう…おうっ!…おぅ…おう?…おおう…』

鳥肌が立った。息を呑む。今度は竜児のほうが声が出ない。あうあうと口を動かしてようやく一言。

「…………なんだ……これ……」
「えへへ。竜児の声録音しておいて編集しちゃった」

もじもじしながら嬉しそうに笑う大河。婚約して正解だったのか真剣に悩んだ瞬間だった。

(おしまい)

初出 : 2009年8月7日

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