絶園のテンペスト 第十幕 『タイムマシンの作り方』

先週の大どんでん返しに続いて今回もまさかの展開でした。『中二病でも恋がしたい』を押しのけて私の中では今期ナンバーワンです。

第九幕で葉風が2年前の時間に置き去りにされていることを証明した鎖部左門に対し、真広はあっさりと同調、葉風から寝返りました。真広にとって葉風は愛花を殺した犯人を見つけるためのパートナーに過ぎず、葉風にその力がないのなら組む理由はありません。これで真広を懐柔したかに見えた左門でしたが、吉野は鮮やかな方法で左門の『嘘』を暴きます。軍事攻撃が続く中で、吉野と左門の緊迫したやりとりが繰り広げられます。

なんというか、構成の勝利ですね。原作を読みたくなってきました。先週左門が真広を懐柔した理屈は、少年漫画だったら絶対に許されない流れですが、これまでの展開から視聴者は、「確かに真広には葉風に付く意味が無くなった」と無理矢理納得させられてしまいます。鮮やか、というしかありません。これまでのしつこいくらいの愛花推しには(意味ないんじゃないか?)と思っていましたが、まさかこんな展開に持ってこられるとは思いませんでした。真広にとっては愛花殺しの犯人捜しだけが重要であり、手伝うのが葉風か左門かなどどうでもいいことです。

そして、それを逆手にとって流れを引き寄せたのが吉野でした。「愛花殺しの犯人がわからないのなら、こんな世界は滅びてもいい」と笑う真広に左門は驚嘆します。この物語を面白くしているのが真広の狂気であることは間違いありません。葉風と左門にはそれぞれが信じる正義があります。左門はそのために暴力をふるい何万もの人を殺しましたが、彼は真剣にこの世を救うことを考えており、失敗すれば人類が滅びると思っています。その意味で、左門は悪ではありません。葉風も悪ではありません。ただ一人、悪と言える人間がいるとすればそれは真広です。なんて面白い。

左門と葉風の戦いは、左門に酷いハンディが課せられています。これまでのつきあいである程度信用を築いた葉風は自分が真広の所に戻ってくるまで待ってもらえます。しかし、裏切りをそそのかしている左門には時間がありません。即座に犯人を引き渡さなければ真広はあっさり絶園の樹を殺すでしょう。そうなれば左門が考える世界の終わりが来ます。

アニメ作品ではちょっと最近見ないようなどんでん返しでした。これまではバトル続きで、魔法になれていない真広・吉野コンビが苦戦していましたが、人質を取った彼らは今や戦いを心理戦に持ち込んでいます。その間、バトル担当の夏村とお色気担当のエバンジェリン山本さん(28歳無職)が、すでに話しと関係なくなりつつあるバトルを繰り広げています。うわぁ。

ところで、これまで読点か中黒が必ず入っていたサブタイトルが、大どんでん返し回の第九幕「彼氏」から消えました。これも計算しているのでしょうか。

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ハルチカシリーズ

以前からあんこさんがよく紹介なさっていた初野晴、「ハルチカシリーズ」を読みました。いずれも短編集の体をとっていますが、ほぼ時間軸順に並んだ連作となっており、第一作は主人公高校1年の2学期から話が始まります。

以下、Bookデータベースより引用

穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに―。化学部から盗まれた劇薬の行方を追う「結晶泥棒」、六面全部が白いルービックキューブの謎に迫る「クロスキューブ」、演劇部と吹奏学部の即興劇対決「退出ゲーム」など、高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。

主人公のチカは吹奏楽部のメンバーで、幼なじみのハルタとともに吹奏楽部をもり立てて、何とかコンクールの晴れの舞台に立とうと努力しています。ただでさえ気が遠くなりそうな目標に加えて、ハルタとは頭が痛くなるような三角関係。おまけに、次々と騒動を起こす校内の名物(迷惑)生徒達。本当は部活に専念したいのに、なんやかんやで部員獲得のために奔走するチカとハルタの日々を描く青春譚です。

さて、このシリーズ、面白いです。読みやすい文体としっかりした構成に支えられた優しさあふれるストーリーに安心して没頭できます。物語は弱小というより人数が少なくて廃部寸前だった吹奏楽部を立て直すべくハルタとチカが懸命に走り回ったあと、部活がやや軌道に乗ってからの話ですが、いかんせん、個々のメンバーの実力が低い上に、そもそもメンバーが足りません。1話目の結晶泥棒を除くと、2巻の終わりまでほとんどのストーリーがメンバー集めです。それ以外の話も頼りになる仲間が歩み寄ってくれる話や、先生を取り戻す話が主体です。

作品の魅力は、チカをはじめとする何人かの前のめりな登場人物達と、思いっきり泣かせに来るストーリーですね。軸となるのはハルチカコンビで、ハルはかなりの数の問題の核心に迫る探偵役です。ただ、ストーリーとしてはハルは割と影が薄く、チカのがむしゃらさが全体を牽引します。

チカは興味深い少女です。元々吹奏楽には思い入れはなく、中学時代バレーボール部で味わった苦役から逃げるために軽い気持ちで吹奏楽部に入部しています。それが、部を立て直すために奔走するうちにいつしか人を好きになり、ハルと三角関係と知ってめまいに倒れそうになります。彼女を貫くのは前向きの突進力ですが、脳天気なバカでないところが彼女の魅力です。チカは好きな人のためになんとしても吹奏楽部を全国大会に!とがんばりますが、いかんせん、彼女は元々体育会系であり中学時代には吹奏楽の経験がありません。

実力のある経験者を途中入部させるために彼女は奔走し、それが実を結んでいきますが、皮肉なことにそうやって参加してくれた仲間達が彼女の劣等感をあぶります。客観的に見て彼女の技術は稚拙であり、コンクールに出場となれば、お荷物になるのは必定です。そのため、あれほどバレーボール部の体質として嫌っていた24時間営業に何の疑問も持たず突入して、朝から番前で年中無休の練習漬けを敢行しています。ここは見所の一つです。彼女はあまり自覚していませんが、どっぷりと部活に浸って振り返らずに突っ走る姿は、読むものにさわやかな読後感を与えてくれます。

加えて、彼女の前のめりな性格は、波状攻撃をかけてくる珍事件に対して決して『どんびき』などという態度をとらせません。青少年サファリパークなどと呼ばれる問題部ばかり集まった一角をはじめとして、彼女に持ち込まれる珍事件、現れる奇人変人に引かず、前のめりにつっかかって襟首つかんでぐらぐら揺するバイタリティが話を面白くしています。他にも1年後輩の後藤さんや、芹澤さんなどが同じような前のめりの反応で脇を固めてくれます。

ストーリーは、有り体に言えば人情ものです。謎解きの要素はあることもあれば、無いこともあります。それが謎解きであれ、回想であれ、明かされる真実によってある人は心を開き、あるひとは新しい路を見るといった話が多いです。

繰り返し陳述されるバレーボールへの憎悪(笑)、ハルとチカの奇妙な三角関係、次々と現れる変人達、子供達を暖かく見守り正しく生きるということを行いで示す大人達。ページをめくれば時間が経つのを忘れること請け合いです。いずれも甲乙つけがたい作品ばかりですが、たった一つの秘密のために作り上げられた九つの秘密に一人を支える九人の姿が重なる『十の秘密』と、「無償の愛」「心地よい疲れ」といった繊細な言葉が少女達と詐欺師の間で交錯する『空想オルガン』の二編が私のがお勧めです。