『響け!ユーフォニアム』第8話

『響け!ユーフォニアム』は、私でなくとも今期最も注目している作品だという人が多いのではないかと思います。なにしろ製作は京都アニメーション、そして題材は『けいおん!』以来の音楽です。期待するなというほうが無理です。

しかし実際に放送が始まってみると、私はどうも居心地の悪さを感じながら見ることになりました。一番の、というかほぼ唯一の理由は主人公です。久美子が余りに煮え切らなくて、どうしても作品に没頭することが出来ません。そもそも、音楽という題材は登場人物が没頭してこそ光るのです。

煮え切らないヒロイン

全体としてこの作品はこれまでの京アニ作品同様に、驚くほど高いレベルの作画に支えられています。CG混じりの絵は丁寧なエフェクトを施されて毎回はっとするような場面を見せてくれます。登場人物の動作も『氷菓』『たまこまーけっと』で気になった妙に女の子女の子した歩き方がぬぐい去られて、気になりません。

女の子もヒロイン4人のキャラ付けがきちんとされていて、声優もちゃんとそれぞれの特徴にあわせた演技をしています。

でも、久美子が煮え切らない。それが喉に引っかかった骨のように気になって仕方有りませんでした。オープニングでは高らかに「離さない、あきらめたくない、限界さえも跳ね返す勇気で」と歌い上げ、エンディングでは本人達が「私たちが心をつかむ」と、はっきりとした主体性を提示している作品が『響け!ユーフォニアム』です。ところが、久美子がちっとも煮え切らない。前に進むのか後ろに進むのかはっきりせず、いつも臆病に周りを気にしてヒロインらしく有りません。フェスティバル回で多少の前進がありましたが、基本的に彼女はこの作品のヒロインらしからぬ存在でした。

しかし、今後彼女は変わるのではないか。周りのことやこれまでのことなんか気にせず、ユーフォニアムに没頭していくのではないか。そんなふうに思わせたのが第8回でした。

秀一のアプローチをかわすためにとっさについた嘘から、久美子は麗奈と祭の夜を過ごすことになります。ところが、麗奈の指定は何故か祭の会場ではなく、しかも楽器持参を指定されます。重い楽器を二人で担いで小山を登りながら、麗奈は自分の心のあかします。

少女ならではの傲岸

麗奈は作品中で孤高の存在として描かれています。滅多に周囲と交わらず、むやみに笑顔を見せない。そしてトランペットを吹く姿は堂々としています。その姿は夕陽に向かってトランペットを吹いたシーンや、フェスの際に動揺する部員のまっただ中で音を出して平然とするシーンに強い印象を残します。一方で、久美子から見るとどうしても取っつきにくい存在でした。それはたぶん他の1年生からも同じでしょう。

山に登りながら麗奈は久美子に話をします。そのシーンを、私は釘付けになってみていました。なにしろ、「一緒に遊んでみたかった」と言いつつ、麗奈の話の内容は傲岸としか評しようがないのです。

「黄前さんは性格悪いでしょ」

「みんなとなれ合うのは嫌」

「いいこちゃんの皮、ぺりぺりってめくりたいなって」

「私は特別になりたい」

どれもこれも、思春期の若者にありがちな特別意識の匂いがします。現代では「中二病」のレッテルをべったりを貼り付けられる類いのものです。しかし、その言動さえも気高さのように聞こえてしまい、久美子の言葉を借りれば人を引き込んでいく雪女のような美しさを見せるのです。

その麗奈が

「祭りの日に山に登るなんて馬鹿なこと、他の人達はしないよね」

と、言うシーン。

言葉だけでなく、その夜空に浮かぶ二つの星が彼女たちは地面に残して来た人たちとは違うのだ、特別なのだと語っています。

私は百合百合した作品があまり好きではありませんが、麗奈はこの回久美子に対して執着のようなものを見せています。それは秀一に対する射抜くような視線であり、山頂で久美子に「そんなに塚本が気になる?」と問いただしたときの表情でもあります。

今時のアニメによくある百合表現なのでしょうか。それとも単に特別な自分が仲間と認めた特別な久美子を独り占めしたいという、やはり傲岸な若さなのでしょうか。それはよくわかりません。

久美子が

「高坂さんの気持ち…」

と話を続けたときに、麗奈は芝居めいた仕草で久美子の額に指をあてて言います。

「麗奈」

名前で呼べ、と。もう、自分たちは距離のある単なる知り合いでは無い。祭りの夜に山に登るといったバカなことをする仲間なのだから。百合が好きとか嫌いとかとは関係なく、息を呑むシーンでした。

指針

おそらく、麗奈が久美子の中に見た性格の悪さは、虚像です。もっと言えば、麗奈の考え違いでしょう。久美子自身の思ったことが口に出る軽率さに加えて、彼女が持っている自分を含めた周囲への評価の低さこそが「本当に全国に行けると思ったの?」という言葉を口に出させた根本原因です。

その評価の低さは、まだ語られていない彼女の過去を今だに引きずらせていますし、知り合いの少ない高校を進学先に選ばせましたし、特に自分から決めるでもなく友達に引きずられるように部活を選ばせました。

煮え切らないなりに、自己評価が低いなりに

「もっとうまくなりたい」

と思う久美子。その久美子の前で麗奈は

「だから私はトランペットをやっている。特別になるために」

と言い放ちます。そしてすがるように聞く久美子に答えるのです。

「トランペットをやったら特別になれるの?」

「なれる!」

自分が突き進むことにみじんの疑いも持たない傲岸さが生み出す、この間髪を入れない返事こそが久美子の求めていた指針だと言えるのでは無いでしょうか。もっと練習しろ、もっとうまくなれ。余計なことを考えるな、と。

久美子は変わるのか

ラストシーン、久美子はこれまで見せたことの無いような真剣な顔でオーディションへの決意をにじませています。

第8話は、久美子視点で麗奈の怪しいばかりの美しさと魅力を描きながら、そのいっぽうで、ストーリーは久美子自身にとっての大きな転回点を示しているように思えます。

今後久美子は変るのか、いや、どのように変るのかが楽しみです。

広告