映画:『氷菓』についてもう少し

先日ブログに映画の感想を書いた後にも映画化について考えていました。自分の考えをまとめるために書き記しておきます。

小説を映画化する際には一語一句変えずにそのまま映像化することは原則として意味が無いため、当然のように映画には改変があります。その中で一番私にショックを与えたのは、設定やストーリーの変更ではなく

「神山高校の校舎が奉太郎の時代と関谷純の時代で同じ」

事です。

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映画『氷菓』を観てきました

映画『氷菓』を観てきました。

米澤穂信作品の映画化に関しては、『インシテミル』にがっかりしたのでこの作品には不安があったのも事実です。が、終わってみれば当初の不安は吹き飛び、「観て良かった!」という感想で一杯です。

以下感想を書きます。このマイナー・ブログをわざわざ読んでいるのは原作『氷菓』を何度も読んだような濃いファンばかりでしょうからいまさらネタバレを心配しても仕方有りません。しかし、映画には映画の発見と驚きがありますので、できればこれを読まずに映画を観ることをお奨めします。

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米澤穂信『満願』

米澤穂信の短編集「満願」が山本周五郎賞の候補に選ばれたそうです。米澤作品はもともと推理小説としてはトリックよりも人物の心のひだが売りですので、文学作品として高い評価をうけるのは大変喜ばしいことです。まだ候補に選ばれただけですが、今後どうなるか楽しみに見守りましょう。

さて、短編集『満願』。読んでから日にちがたってしまいました。感想を書こう書こうと思いつつ、なんやかんやで時間がたってしまったのは、一つにはこの短編集の米澤穂信らしい百貨店的な内容の故だったりします。なにしろ

  • 警察官が死んだ後輩のことを思い返す『夜警』
  • かつて自分の無神経さから分かれてしまった恋人の心を取り戻すためにタイムリミット付きの推理を行う『死人宿』
  • 過酷な生活環境で暮らす少女を描いた『石榴』
  • エネルギー開発のために私生活をなげうって働く男の末路を描く『万灯』
  • 都市伝説がゆっくりと死へと色を変えていく『関守』
  • 家宝を守るために人を殺した恩人を懐古する『満願』

と、バラエティに富んだ内容です。短編集を貫くテーマのようなものはなく、先に述べたように百貨店的な本になっています。作品としては少しあっさり味のものもあれば、『石榴』のように終始ひんやりした空気が肌にまとわりつくようなものもあります。

さて、いろいろ考えたのですがここでは『満願』だけ、手短に感想を書くことにします。結末に関するネタバレを含みますので未読の方は以下は読まないでください。

『満願』は、言ってしまえばきわめて米澤穂信的な、「美女の見え方が変貌していく」小説です。ある意味お家芸、ある意味ワンパターンと言って良いでしょう。全体の構成としては、主人公の一人称視点であり、最初から最後まで回想を繋ぎあわせることで、はじめから主人公が得ている解釈を、ゆっくりと読者に開陳していく形になっています。この点だけ見れば『夜警』『万灯』も同じ構造です。

主人公は、回想の中で学生としてヒロイン鵜川妙子と出会います。下宿先の奥さんと下宿させてもらっている学生という立場で主人公が見た鵜川妙子は、大変品の良い振る舞いをする女性です。このあたり、現代日本ではなかなか表現する言葉がありませんが、昔の日本映画などを見ると女性は落ち着いた品の良い振る舞いをしています。鵜川妙子はまさに、モノクローム映画の中の女性のように品の良い人です。

あるときは経済的に、有るときは勉学に苦しんだ主人公は、鵜川妙子の品の良い、背筋の伸びた優しさに何度か助けられ、それは彼の中で美しい記憶となっています。

しかしながら、彼女は殺人という罪を犯してしまいます。弁護士となった主人公は彼女を救うべく奔走しますが、結局鵜川妙子は自ら上告を取り下げて、刑に服します。この物語は、その彼女の出所にあたって主人公が行った回想の形をとっています。

彼女が犯した殺人が過剰防衛であったのか正当防衛であったのかに思いをはせる内に、主人公は彼女が秘めていた心の内に気付く、というのがこの話です。現場には綿密に計画された痕跡が残っており、主人公がそれに気付くか否かが推理小説としての核になっています。

が、例によってですがこんな時の米澤穂信はトリックのロジックに重きを置きません。むしろ、そのロジックが明らかになったときに、人が感じることそのもののほうが物語としては重きを置いています。ですので、トリックはあっさり目。しかも定番の美女変貌ものですので、米澤作品を何冊か読んだ人には、「またか」と思うことでしょう。この辺は、そろそろ米澤穂信も得意なパターンを増やしてほしいところです。

一方で、鵜川妙子の「正体」はなかなか見事でした。この作品の最大の読みどころは、なんといっても彼女の殺人が防衛ではなく、別の動機による故殺だとわかったときの主人公の心情です。人を殺した事だけではなく、困っていた主人公に部屋を貸してくれたことも、勉強を後押ししてくれたことも、お金を貸してくれたことも、いや、祭りに連れて行ってくれたことすら、すべては彼女が守っていたものからもたらされていたのでした。

自らが大切だと思うことのために殺人すらいとわない女性、という「形」は、やはり米澤作品においては一つの結晶と言えるものです。そろそろ違う形の結晶を見たいと思いつつ、その形の美しさに見とれてしまう作品でした。