大規模戦闘に関する古典的な研究の成果の一つに、「ランチェスターの法則」というものがあります。Wikipediaにも記事がありますから、興味のある人は読んでみるといいでしょう。
ランチェスターの法則は艦隊戦にも応用が可能な法則です。これは、実際の戦闘の数々の面を単純化することで、数理的な取り扱いを容易にしたものですが、結論は大変簡単になります。つまり、
味方の被害の大きさは、敵の戦力の2乗に比例する。
ここで戦力とは、[人数*個人の戦闘力]です。艦これならば[艦隊規模*レベル]と置き換えてもいいでしょう。簡略化のためにすべての戦闘員(あるいは艦艇)の戦闘力は同じであると仮定しています。
ランチェスターの法則からはいろいろなことを引き出すことができますが、おそらくは多くの艦これプレイヤーが感じている極めて印象的な現象をここでは取り扱います。すなわち
敗北は雪だるま式に進行する。
最初は「互角かな」と思っていても、砲火を交える度に形勢は急速に片方に傾いていきます。それはリニアな進行ではなく、慎重に机の上に立てた物差しが、ほんのわずかな外乱で一方に破局的に倒れていく様子に似ています。
さて、こんな事が艦これの何の役に立つのでしょうか。
先手必勝と航空戦力
ランチェスターの法則が導く雪だるま式の敗北を防ぎたければ、先手を取ることは絶対的に必要な事です。これは、特に彼我の戦力が拮抗している際に重要です。最初にダメージを与えられると、それは雪だるまが転がる第一歩になりかねません。殺られる前に殺る、というのは文字通り死活問題なのです。
では、どうやって先手を取るかというと、それは航空戦力となります。『艦これ』は序盤のmap 1-1などの小規模艦艇の会戦では、次のフォーマットをとります。
- 砲戦
- 雷撃戦
- 夜戦
これが航空母艦を交えると次のようになります。
- 航空攻撃(雷撃)
- 砲戦(爆撃を含む)
- 雷撃戦
- 夜戦
砲撃はまさに相手の戦力を削っていく過程ですが、その前に航空攻撃があります。これが重要なのです。航空攻撃によって最初に敵の砲撃能力を削ることができれば、その後の砲撃戦が楽になります。
そして、直ちに「攻撃機だけではなく、爆撃機もほしい」ということになります。『艦これ』では砲戦中雷撃機は飛ばず、爆撃機のみが敵に対して攻撃可能だからです。
航空母艦は戦艦の的になると脆く、また夜間は攻撃に参加できません。航空母艦を艦隊に配備する場合には、あらかじめなるべく防御力を高めておき、また、夜戦にもつれ込む前に敵の砲撃力を沈黙させる必要があります。
全く同じ理由から、開幕戦雷撃をかます『スーパー北上さま』や、潜水艦も重宝されます。ただし、潜水艦は砲撃戦に参加できないため、自動的に味方の砲撃力が弱くなります。このあたりは痛し痒しです。
駆逐艦の対空能力
駆逐艦は戦艦ほどの火力はとうてい望めませんが、雷撃となると必殺の力を発揮します。しかし、それが砲撃戦で最初につぶされると、使い物になりません。雪だるま式敗北を防ぐには、戦力の逓減を防がなければなりません。そうなると、大砲の弾は避けられないにしても、航空攻撃を避け、装甲を厚くする努力はした方がいいでしょう。
航空攻撃に対する対空能力としては、対空能力の高い兵器を置くことになります。これは、少しでも雷撃能力を高めたい身としてはつらいですが、背に腹は代えられません。
さらに近代改修を繰り返して、防御能力を高めることが重要です。相手にこちらの戦闘力を削られないようにして、仕事をする時間まで力を温存しておくのです。もし、敵の航空母艦が沈黙する夜戦まで生き延びることができれば、駆逐艦は大変強力な武器になります。
もうちょっと史実よりでも良かった
『艦これ』を戦争ゲームとして見たとき、残念なのは航空勢力と戦艦が敵の弱い側から襲いかかることです。
第二次大戦的な兵器運用であれば、輪形陣を構える艦隊が衝突すれば、それは直ちにアウトレンジからの空母のつぶし合いになります。そして空母をつぶすことができたなら、航空戦で勝った方が今度は戦艦をつぶしにかかります。夜戦にもつれ込むことになれば、水域を所狭しと快速で駆け巡る駆逐艦がダメージを負った戦艦や空母に襲いかかります。
残念ながら『艦これ』では最初に駆逐艦と軽巡洋艦がつぶされます。したがって、マップが進行すれば、駆逐艦隊の出番は希薄になります。
もうちょっと史実よりでも良かったですね。