成長と再起を正面から描いたアニメ『オーバーテイク!』

2023年に心に残ったアニメの一つに『オーバーテイク!』があります。

プレイベーターが多く参加する4輪レースの登竜門F4クラス。慢性的な資金難にあえぐレーシングチーム「小牧モータース」のレーサー浅雛悠(あさひなゆう)は高校生。同じくレーサーだった亡き父の思い出を胸に走りますが、思うような結果を出せません。そのピットにフォトグラファーの眞賀孝哉(まどかこうや)が現れます。彼は10年前の震災の際に撮影した写真が原因で、人物写真を撮れなくなっていたのでした。

レースを題材にしたアニメは少なくないですが、多少なりとも必殺技的なもののやり取りのが行われるバトル漫画だったり、あるいは百合アニメの舞台だったりとなかなか本気のレースが描かれることは少ないです。そんな中、この作品は珍しく真正面からレースをとらえていました。我が家は2輪のレースを家族で見ているせいか、そういうスタッフの本気がバシバシと伝わってくる面白い作品でした。

何といっても物語冒頭のエピソードが最高でした。スポンサーがついていないのでタイヤを存分に使えない。これは切ないですよ。タイヤは消費材ですもん。1レースで1本使いつぶすタイヤを大事に使いまわすなんて、良い結果が出るわけありません。しかし、プライベーターの資金難なんて当たり前のことです。第1話で資金豊富なチームと資金難のチームを見事に描き分けて、主人公のいる場所を明確化したのはお見事でした。

人をあまり寄せ付けず、伸び悩む成績に苦悩する若い浅雛悠。経験はあるのに被写体と向き合えなくなってしまった眞賀孝哉。この二人の成長と再起を軸としながら、話は進みます。。

作品全体を通して一貫しているのは、成長も再起も人々とのやり取りの中でこそという点です。そして二人とやり取りする人々もまた成長と再起を図ります。

悠と孝哉を軸としつつも、けがからの再起を図るベルソリートのファーストドライバー春永早月(はるながさつき)、悠や早月との戦いの中で彼らを理解し成長するベルソリートのセカンドドライバー徳丸俊軌(とくまるとしき)、悠の父である浅雛澄(あさひなとおる)をレースで亡くしながら、それぞれにレースを続ける小牧モータースの小牧太と、ベルソリーゾの笑生教典(えなきょうすけ)といった人物の群像劇となっているのも特徴です。

孝哉の再起に不可欠な題材として、東北の震災をネタではなく正面から取り上げたのも印象的でした。これについては、孝哉と元妻の雪平冴子(ゆきひらさえこ)が、震災の被害者とそれを支える人々のメタファーになっていることも好印象でした。

視聴者を置いてきぼりにしないようレースに関する技術的なことはあまり掘り下げていませんでしたが、スリップストリームが俊軌の成長の象徴として効果的に使われていたのはお見事です。

萌えもエロも遠ざけ、人、レース、災害に真剣に向かいつつバランスよく成長と再起を描いた、大人向けのよい作品でした。

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